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東京高等裁判所 昭和42年(ネ)1395号 判決

控訴人 増田金男

被控訴人 株式会社中部相互銀行

右訴訟代理人弁護士 城田富雄

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は「原判決中控訴人に関する部分を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は「控訴棄却。」の判決を求めた。

一、被控訴代理人は次のとおり述べた。

権限踰越による表見代理の仮定主張について、

被控訴銀行と主債務者である鮎川とは従前から銀行取引があって、本件の相互掛金契約以前にも昭和三六年九月か一〇月頃、右鮎川が被控訴銀行から金二〇万円を借入れたことがあり、この時控訴人はその保証人となったので被控訴銀行は保証の意思を諸資料によって確認した。そして右の貸金が順調に償還された頃に本件の新たな借入れ(相互掛金契約)が申込まれ、これについて従前の保証人が再び保証人となることは銀行取引において屡々行われる事例であるし、かつ、その他の資料も完備しており、前の借入保証額が二〇万円であっても約二年の経済事情の変動を考慮にいれるならば四〇万円について保証することは異とするに足りないから、被控訴銀行としては控訴人が四〇万円の債務保証をしたことに疑念をさしはさまなかったことは当然である。

控訴人の主張に対し、

当時被控訴銀行の行員鈴木彰が貸付係でなく得意先係であったことは認める。又、被控訴銀行の規定集には控訴人主張のような規程のあることは認める。しかし右規程は被控訴銀行が昭和三八年一〇月一日より実施した内規ともいうべき内部的な貸出事務細則であり、小額の貸出しについては励行できない。

二、控訴人は次のとおり述べた。

本件の貸付けについては、被控訴銀行は貸付係でない得意先係の行員鈴木彰に貸付けを担当させ、しかも掛金債務弁済契約証書(甲第二号証)には借入金額を記入して主債務者鮎川に交付すべき建て前であるのを数額の記入をなさず白紙の右契約書を渡し、かつ、被控訴銀行の規定集の「禀議書作成上の信用調査の要領」には「借主には債務の確認、保証人には保証意思の確認を必らず相手へ面接して行ない、承諾した日付を記入し、当事者を明確にしておくこと。」との規程があるから、被控訴銀行は控訴人に面接又は保証の確認を行なうべきであるのに、これらの措置をとらず、控訴人の関知しない額を勝手に鮎川に貸付けたものである。右のとおり被控訴銀行には本件の貸付けには重大な瑕疵と手落があったことは明白であり、鮎川に四〇万円の保証をする権限を有していたと信じかつ、かく信ずるについて正当な事由があったとはいえない。

被控訴代理人の主張に対し、昭和三六年九月か一〇月頃鮎川が被控訴銀行から二〇万円を借入れる際保証をしたこと、および前記規定集が昭和三八年一〇月一日から実施されたものであることは、認めるがその余の事実は争う。

三、証拠〈省略〉

理由

一、鮎川が昭和三八年九月三〇日被控訴銀行との間に相互掛金契約を締結し、次いで、同年一一月一八日給付金四〇万円と既払込金二万円の利息二四円を受取り所定の計算による掛返金四五七、三三〇円について、被控訴銀行主張の内容の弁済契約をしたこと、控訴人の署名ならびに印影、その余の鮎川、関口の署名、印影については〈証拠〉により明らかである。

二、ところで本件の主要争点は、控訴人が右鮎川の被控訴銀行に対する前記返済債務について連帯保証をしたか否かということにある。

この点、被控訴銀行は、控訴人は鮎川が被控訴銀行との間に締結した返還債務をその約定を承認のうえ連帯保証をしたと主張し、控訴人は右債務のうち二〇万円の限度で連帯保証をしたことを認め、その余の部分を争っているところ、控訴人が鮎川の負担する債務について、二〇万円を超える部分まで連帯保証をし鮎川に被控訴銀行との間に右四〇万の連帯保証契約を結ぶ権限を附与したことを認めるに足る証拠はない。そこで、鮎川の権限踰越による表見代理の主張について判断する。〈証拠〉を綜合すると、被控訴銀行は、昭和三八年九月三〇日鮎川から四〇万円の融資とこの前提となる相互掛金の申込を受け、同日、まず相互掛金について被控訴銀行主張の内容の契約を締結し、四〇万円の融資については、鮎川の営業ならびに資産状態と信用関係について調査したところ、鮎川には昭和三六年九月か一〇月頃控訴人の連帯保証で二〇万円を融資したことがあり、(右融資ならびに控訴人の連帯保証については当事者間に争いがない。)その返済も順調に行なわれて、鮎川の信用状態は良好であると考えられたので四〇万円の融資を行なうことを定め、鮎川に印刷部分以外は白地の掛金債務弁済契約証書用紙を交付し、二名の連帯保証人をたて、同人らから鮎川の負担する債務について連帯保証をする同意を得て、所定欄に各連帯保証人の署名捺印と、印鑑証明書等の必要書類を添えて提出するよう指示した。鮎川は控訴人に被控訴銀行から二〇万円の融資を受けるので連帯保証をしてもらいたい旨を告げ、控訴人も以前鮎川が被控訴銀行から二〇万円を借入れるについて連帯保証をしたことがあるのでこれを承諾し、前記の掛金債務弁済契約証書に署名捺印して鮎川に交付した。鮎川は右の証書にもう一名の連帯保証人関口の署名捺印を得、右証書に控訴人の印鑑証明書資産証明書、納税証明書等を添付して被控訴銀行に提出し、控訴人から四〇万円の連帯保証をすることの同意を得ている旨告げて四〇万円の融資を求めた。被控訴銀行は行員をして控訴人に面接させ、右保証の有無を確認させようとした、ところ、鮎川が控訴人は多忙であり、かつ住所も二個所にあるので容易に面会することができないであろうと告げられ、以前鮎川の債務について控訴人が連帯保証をして問題もなく順調に返済が行なわれており、本件の融資は四〇万円という比較的小額で必要書類も完備しているので控訴人への面接を省略し、鮎川の言を信じ、昭和三八年一一月一八日鮎川との間にその主張の内容の弁済契約を締結し、同人に所定金員を交付したことが認められる。右の事実によれば控訴人は鮎川に同人と被控訴銀行間の二〇万円の債務について連帯保証をすることを承認し、同人に右範囲において被控訴銀行との間で連帯保証契約を締結する代理権を授与したものであるが、鮎川は右代理権の範囲を超え四〇万円について被控訴銀行と連帯保証契約を結んだもので授権外については鮎川の権限踰越の行為というべきところ、被控訴銀行は、以前鮎川の債務について控訴人が連帯保証をし問題もなく返済されておること、ならびに本件について控訴人の署名捺印と印鑑証明書等の必要書類が完備している等前認定の事実関係においては、鮎川が四〇万円の連帯保証契約を締結する権限を有するものであると信じ、かつ、かく信ずるについては正当事由があると解するのが相当である。控訴人は、被控訴銀行は貸付係でない得意先係に貸付事務を担当させ、かつ規定集には保証人には保証意思の確認を必ず相手へ面接して行なうべきことを定めているのにかゝわらず控訴人に面接等確認の手段を採らなかったことは重大な過失であると主張するが、貸付事務の担当は被控訴銀行内部の単なる職務分担にすぎず正当事由の有無とは関係がなく、又、主張の規定集も禀議書作成についての被控訴銀行の内規に過ぎず、かゝる規定の存否にかゝわらず被控訴銀行とすれば連帯保証人に面接又は電話連絡等により連帯保証の有無を確認するのが常道であることには変りはないが、前認定の事実関係においては被控訴銀行が控訴人に対し右のような連帯保証の確認をしなかったとの一事をもって、鮎川の代理権の存否について正当事由を欠くものとはいえない。

三、してみると、控訴人は鮎川の被控訴銀行に対する債務について連帯保証をしたものというべきところ、鮎川は四五七三三〇円の債務に対し昭和四〇年七月まで合計二七二、三七〇円を支払ったのみでその余の支払をしないことは、〈証拠〉により明らかであるから、控訴人は被控訴銀行に対し一八四、九六〇円とこれに対する昭和四〇年八月三一日から完済まで一〇〇円につき一日五銭の割合による損害金の支払義務がある。〈以下省略〉。

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